猛暑の今夏、北側の二階建て隣家のエアコン換気扇からタバコの煙が熱風となって私が住む敷地に絶えず侵入してくる。東側のアパートから風に運ばれ流入する住人のタバコの煙、南側の住人が吸うタバコの煙。敷地の西側にある道路からは歩行喫煙する人のタバコと吸殻から立つ煙が流入する。私の生活環境は東西南北をタバコの煙が包囲し、まさに四面楚歌である。

 猛暑の中、扉や窓を締め切っても、木造家屋の私が住む室内には容赦なく汚染空気が侵入する。冷房に弱いのでエアコンは使えない。扇風機と団扇では煙害は防げない。アレルギー性・過敏体質でもあり冷房に弱い私は冷房が効く新建材のシックハウスには住めない。正真銘の受動喫煙被害である。

 北側の隣家には、西側面の各階にエアコンの換気扇が一台ずつ、東側面に台所の大きな排気口がある。これら双方から排気されるタバコの煙が、私の生活環境を完全に挟み撃ちする。目も鼻もノドも粘膜がやられ、顔の皮膚までヒリヒリする。目ヤニと鼻づまり、痰が詰まり、頭痛が広がりクラクラする。胸も鼓動がして苦しくなる。家屋の中にいては何もできない。一日のうちで煙害がストップするのは唯一、隣家の住人が就寝中の明け方の三時ごろから午前九時ごろまで。数人の若者が同居するコンピュータ作業の在宅自営業者だという。データのバイヤーも喫煙者が多く、西側歩道には毎日、吸殻が散乱している。毎晩、私は水撒きしてその吸殻を流す。なぜポイ捨てする本人が処理しないのか?新宿区には「ポイ捨て禁止」、と「歩行タバコ禁止」の条例があるが、まったく機能していない。

 喫煙も受動喫煙も健康や身体を損なう。しかし喫煙者は受動喫煙に苦しむ人間の痛みを理解できない。四十年前から今日まで、受動喫煙に苦しむ人間に対して、「気のせいだ」、「気にしすぎる」、「神経質だ」、「慣れれば大丈夫」という。これらの回答はどれも受動喫煙被害者には当てはまらない。

 私は四十年以上前から受動喫煙の被害に悩まされ続けている。受動喫煙のため絶えず炎症を生じ眼科通いが続く。目の痛みとかゆみ、四十年前には職場の煙害で七回も両眼の結膜手術を受けた。タバコの煙のある職場を避けるしかなかった。同時に頭痛、咽喉の腫れと痛み、鼻腔の粘膜の腫れや痛み、鼻づまり、たまらないかゆみ、さらには痰が絡む気管支炎を生じるようになった。しかも鎮痛剤も医薬品アレルギーで服用できない。

 一九七八年、日本でもようやく「嫌煙権確立を目指す人々の会」が結成され、私はさっそく嫌煙バッチを買い、胸に付けて歩いた。「そんなことをして嫌がらせだ」という人々が多かった。銭湯には何度も禁煙、分煙をお願いしたが、「お客が減る」といって、いまだに断られる。銭湯を取りまとめる東京都の環境衛生公衆浴場組合には何度も禁煙、分煙を申請したが回答はなかった。「嫌煙権確立を目指す人々の会」の代表者、渡辺文学氏も、上記組合にはもちろんのこと、厚生大臣、東京都、新宿区などに、何度も銭湯の禁煙対策を申請してこられた。

 特に、銭湯、温泉、旅館など、風呂上りに、タバコの煙と臭いを浴びせられるのでは再度入浴せねばならず不合理である。入浴施設で濃度が高く健康増進に効果的なマイナスイオンは煙害で濃度が減少するという実験結果が、公衆浴場組合の発行する機関紙にも掲載されていた。入浴施設には全面禁煙していただきたい。

 昨年五月、健康推進法が成立したが、まだ銭湯、温泉施設、旅館、ホテル、コンビニ、食堂など禁煙ではない場所がまだまだある。私は、かつて地下鉄駅にも禁煙マークを張ってくれるよう足繁く通った。地下鉄サリン事件が契機となり、東京の地下鉄は終日禁煙となった。しかし、喫煙する人間がまだまだいる。JRも終日禁煙にしていただきたい。

 合成繊維、合成洗剤、合成顔料、合成皮革、合成着色料、合成香料など、合成ものは、過敏体質やアレルギー体質の人間にはご法度である。それを知っている本人は当然、可能な限り合成ものの使用を避けて生活している。しかし、自分が住む生活環境に不可避に流入する煙害は、どうすれば解決できるのだろうか?害毒の発生源は人間であり喫煙家、愛煙家である。タバコの値上げくらいでは防止できない。一箱千円になっても愛煙家は喫煙を続けるであろう。アレルギー体質や過敏体質は健常に戻せず、治療を受けても完治しないのである。そのうえ治療費や通院代、病院での待ち時間に対する対価を誰が支払ってくれるのであろうか? 

 誰でも特殊体質や持病とつきあって生きてゆかねばならないときに、その人生の苦難はお金では解決しない。しかもアレルギー体質や過敏体質は、もはや特殊体質ではなくなった。環境破壊や衣料、食品、建材、医薬品の複合的作用が生み出す二次災害、つまり人害である。
 
 ところで個人の敷地にタバコの煙が流入し生活環境を壊し、健康を損なうことは、そのほかの人権と同様、「何人も健康な生活を営む権利」を侵害することに相当する。

 喫煙者が喫煙を止めることが、最も単純かつ無料で最良の解決法である。さもなければ、喫煙時の吐き出す息とタバコの煙が喫煙者自身に還流する還流マスクを発明開発し、着用を法律で義務づけていただきたい。

 根本的な解決法は、社会に煙害を拡散させ、自分自身も喫煙で健康を損なう喫煙者が社会的責任を自覚することである。次に、政府による「タバコ販売絶滅宣言」だ。自動販売機の設置などもってのほかである。日本が永世禁煙国家となることは可能であろう。


Dr. 栗谷川福子 明治学院大学教員
DiLAヘブライ語講師
生活環境破壊、敷地内に流入する煙害は解決できるのか?